Column コラム

企業ブランディングの重要性について:バニスター株式会社 代表取締役 細谷正人様

SDGs

「やさしさをかたちに」を基本理念に、モノづくり・コトづくりを通じてお客様に笑顔を提供できるよう、日々追求しております。今回は、ブランディングのプロフェッショナルであるバニスター株式会社代表の細谷正人様にお話を伺いました。

 

 撮影:鈴木陽介氏

 

バニスター株式会社:

人の心理や欲求を様々な角度から深く見つめながら、マーケティングチームとクリエイティブチームが協働し、ブランドコンセプト開発、製品開発、ネーミング開発、パッケージデザイン開発、店頭デザインやWEBなどを行っており、人とブランドの情緒的結びつきを探求している企業様です。

 

◆ 細谷さんのブランディングの定義を教えてください

 

細谷さん: 「ブランディング」とは「ブランド」を作る活動のことです。「ブランド」に必要なのは、競合との「差別性」と、お客様のニーズに合致しているかの「適切性」を明確にすることになります。私たちが考える「ブランド」の定義は、商品パッケージ、ロゴ、広告やウェブサイトなどの目に見える「有形」のものと、営業担当がお客様へ商品説明をすることやお客様からの電話対応、それに対する口コミなどの「無形」なものによる、有形と無形のすべての総和が「ブランド」であるとしています。

 

◆ 今回ご縁があって弊社ブランディングプロジェクトに携わっていただきましたが、今回のブランディングプロジェクトのポイントとその成果は何だと思いますか?

 

細谷さん: ポイントは、先ほど述べた「差別性」と「適切性」を明らかにすることです。まずお客様から適切性を知ることが重要です。どういったニーズがあるのか明確にして、それらをもとに売り場での競合製品と差別化を図りました。今回のインタビュー調査でお客様は一体何を求めているのかが明らかになり、それがデザインやコピーに反映されました。このようなお客様への適切性を見出したことが大きな成果だと思います。

 

◆ 弊社の中期経営計画(コーチョー60プラン)を社内に周知するにあたり、スローガンや重点テーマなどの内容を分かりやすくイラストにして、クリアファイルを作成して社員へ配布しました。ブランディングの観点から、このような取り組みをどう思われますか?

 

細谷さん: 大変素晴らしいと思います。このような社内での啓発活動は「インナーブランディング」と言います。社員の方々の気持ちや行動を変えていく、このような取組は非常に重要で、また、大変なことだと思います。最も大事なのは、この活動を継続していくことです。一度だけの施策では皆さんになかなか浸透しません。同じことを何度も何度もやり続け、社内文化にしていくことが大事だと思います。他企業は、映像や小冊子を作成してこのような取組を行っています。海外ですと、内容をお芝居にして劇場で演じて啓発している企業もあります。

 

◆ モノがありふれている昨今、差別化が難しい時代と言われています。また、アフターコロナにおいて、デジタルの積極的活用やSDGsに始まる持続可能性への考え方に伴い、消費者の方々と企業の関係性に大きな変化が表れてきていると思います。そのような中、企業ブランディングは、益々重要になっていくと思いますが、これからの企業に必要な要素はなんだとお感じですか?

 

細谷さん: 「ブランディング」と「経営」がほぼ同一視されているのが実情だと思います。ですから「ブランディング」というのは経営課題を解決する活動と考えています。持続可能な社会の構築、イノベーションの推進など新しいトレンドや解決すべき社会課題が出現し、それに対して世界中の企業が物凄いスピード感で動いています。社会課題も多岐にわたり、複雑化している今だからこそ、私は基本かつ忠実に「ブランディング」と「経営」を考えていくべきだと思っています。

何度も言いますが、ブランディングの基本とは、お客様への「適切性」と市場での「差別性」です。それは、自分たちのメーカー視点でモノづくりをしていないだろうか。社会やお客様が求めているブランドを作っているのだろうか。それらをもう一度確認し、そのうえで、どのように市場の中で、他社よりも優位にはたらく差別性をどのように作っていくのかをゼロから考えることが大事だと思います。

 

撮影:鈴木陽介氏

 

◆ 先日『ブランドストーリーは原風景からつくる』を上梓されましたが、その中でも語られているブランディングの遅効性についてお聞かせください。

 

細谷さん: 日本には約3万社を超える100年企業が存在します。この数は世界でナンバー1です。これは、代々家業や家訓、約束を守ってバトンを渡しながら会社を守ってきた結果です。これこそが日本企業の強みです。長期的な視野で、先代を敬いながら、次世代に受け継いでいくという経営の考え方は、強いブランドが生まれる本質だと思っています。

本来、「ブランド」というのは一朝一夕で生まれるものではなく、時間を幾度となく積み重ねて作るものであることを理解してほしいのです。今皆さんが活動していることは、20年後のブランドに実を結ぶことになるかもしれないということなのです。毎日の積み重ねの上に、1年後、5年後はやってきます。ですから、明日のことを考える視点と、10年、20年後を考える視点、この二つの視点を持って積み重ねていくことが良いブランドを作るのだと思います。

 

◆ お仕事において、またはプライベートにおいて、細谷さんが日頃大切にされていることは何でしょうか?

 

細谷さん: あまり考えたことは無かったですが、自分の人生を振り返ってみると、「こうするぞ!」とか、「こうなりたい」と何かを明確に定めて、それに向かって走ることはしてきませんでした。常に状況をみて、試行錯誤しながら、いろんなものを吸収し、紆余曲折しながら「こうでなくちゃいけない」と決めずに目の前にあることを一生懸命やってきました。もしかしたらこれがブランディングを行うことにとって重要なことかもしれません。今のように不確実性があふれ、正解がわからない時代だからこそ、私の試行錯誤する能力がブランドづくりという仕事にフィットしているのだと思います。お客様のニーズを知るためには、自分の考えに固執するのではなく、常に柔軟に気持ちをオープンにしておく必要がありますから。(笑)

 

◆ 細谷さんの夢を教えてください。

 

細谷さん: コロナウイルスもそうですが、今何かの警笛が鳴らされているように感じています。皆さんが悩み始めて、立ち止まって、そして良い考えを持ち始めているように思います。私は、皆さんと一緒に、試行錯誤し、分かち合いながら「良いブランド」を作っていきたいと考えています。以前は「良いブランド」=「売れるブランド」、「だれもが知っているブランド」という規模の論理上にあるものでしたが、今、その「良いブランド」の定義は変化しています。それは人や社会の何かに小さな幸せを与えられるブランドかもしれません。「良いブランドとは一体何か?」を皆さんと一緒に考えていけたら幸せです。

 

◆ どうもありがとうございました。

 

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